解離性同一性障害の当事者の記録

主観的な、DID患者としての日々の徒然です

芸術療法〜(17)寄棟造

屋根は頭上にあって地面から屋根を見上げても屋根の全貌はわからないことが多い。坂の上から、または橋の上から遠くの家々を見る。屋根たちは空へと繋がる空中へとそのカタチの意匠を景観の一部分となって主張する。

正式な定義を知らないが感覚として寄棟屋根には長い軒下が似合わないように思っている。寄棟造の屋根はその一枚一枚を中央部分から丁寧に開いてみたくなる。寄棟造の家の屋根は箱の蓋に似ている。4枚の三角や四角がぴっちりと合わさるように拵えられた箱である。

切妻屋根は傾斜して下り長く幅広の軒下を作り夏の強い日差しを遮る役目をすることがある。ヒトが腰掛けて外を眺めるための縁側が軒下に日陰になる部分に造られる。

方や寄棟屋根は不思議な屋根である。屋根を拵えて何かを閉じ込めているように見える。瓦屋根は少なく、それ風のスレートの重なりの端の方に曲線があったとしてもそれは微かでそれはさざなみである。

ロイドの造った帝国ホテルは寄棟屋根であった。ケラバ(軒)部分は銅で拵えた正方形の巨大なレリーフを貼り合わせたものである。

はじめわたしは外から懸命にそのへんてこりんな屋根の飛び出した部分を凝視していた。中に入ってこんどはラウンジから一心にレリーフの模様の意味を考えた。

光が射してケラバはラウンジに日陰を作っていたがよく見るとレリーフは穴ぼこだらけで、その穴ぼこのひとつひとつは念入りに葉脈風の筋が切り絵のように切り抜かれていた。

わたしは光のさす方角をたどってみた。柱や壁とは独立して、建物側のかなりの内側に張られているガラス窓に木の葉が描かれているのを見たのだ。

光は遮ることも出来るけれどこうしてね、光で木の葉を描くのはどう?ロイドが微笑んだ。