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解離性同一性障害の当事者の記録

主観的な、DID患者としての日々の徒然です

DID患者は自殺しやすいか

DID患者の自殺は少ないと言われているが全く無いわけではない。希死念慮と自殺企図では死にたいと感じている状態から一歩踏み出して命を断つ行為に及ぶという違いがある。

わたしは診断直後のころに大量服薬をして外出し路上で意識を失い救急搬送されたがこれは希死念慮にも自殺企図にも該当しない。交代人格による自己破壊行動、つまり解離発作を伴った身体の危機だった。

救急車の中で意識を取り戻したわたしは何が起きたのかを思い出せなかった。救急車の簡易ベッドに横たわり、わたしは氏名と連絡先を伝えた。救急隊員はこんなに低い血圧の人が普通に話しているのを初めて見たと驚いていた。

DID患者は内部に迫害者人格を持つと専門書にあるが子ども時代からのDIDにはこの迫害者人格は存在しないとわたしは考えている。わたしには迫害者人格は居なかった。居たけれど消えたのだと何度も思い返してみるのだが確かにそんな人が居たけれど迫害者とかそんな風ではなかったと思う。

発達障害の分類に愛着障害というものがある。三つ子の魂百までという。生後五年間の近しい養育者による虐待がその要因となる。愛着障害は対人関係を一生涯難しいものにする。

子ども時代のわたしはストレス耐性が脆弱だった。少し痛んだ生のキャベツを噛みしめると吐き気を催して吐いた。ブランコの揺れが段々大きくなるのが恐ろしくてたまらなかった。顔や髪を濡らすことが全く出来ない。欄干の無い橋を渡らねばならないときは激しい動悸がした。苦手な人の触ったドアノブを素手で触れては鳥肌がたち、教室では悪意を発する同級生のいる方角へ顔を向ける動作が出来ず、理解のない教員とは口をきくことが出来なかった。

わたしの内部のわたしではない誰かの存在にはじめて気付いたのは9歳のころだったが、3歳のころにすでにわたしは一匹のクマのぬいぐるみを大切に抱きかかえていて名前はJと言った。Jとは頭文字である。フルネームはプライバシーなのでここには書けない。Jがそう言っているのである。

小さな子どもにとって必要なものとはなんだろうか。わたしには雨風を凌ぐ家屋敷があり、身体を覆う衣服も与えられており、毎日三食とはいかなくとも食事も摂ることが出来ていた。

わたしの発病後母は赤ん坊のわたしに母乳を与えなかったことや赤ん坊のわたしを1度も抱かなかったことを詫びた。わたしは母と手を繋いだことが無い。

当時わたしの一家には国民保険が無く風邪くらいで医者へ行くことはまず無かった。ある日高熱を出した幼児のわたしを近所の内科へ連れて行った母がこの子は貴女の子かと医師から尋ねられている光景をわたしは今でも覚えている。わたしと母との間には親子の関係性が傍から見ても存在していなかったようである。

親族の間では周知の事件だが母は乳幼児のわたしを川に投げ捨てたことがある。その時はこれでわたしを死なせることが出来たと思ったのだとのちに母がわたしに告白している。わたしは叔父のレスキューで流れから救われて一命を取り留めた。

母は時に悪意があった。わたしは生まれながらにして近しい養育者の悪意の中で過ごす他なかった。そう考えるならば衣食住等身体的必要が維持されたことはむしろ奇跡であった。

子ども時代に必要なもの、それは感情的な必要であろう。必ずしも美しいものを見たり聴いたりしなくてもいい。誰かがそばに居て一緒に味わってくれたらそれでいい。その人は笑顔でなくてもいい。少し粗暴な言葉掛けでもいい。安心と共感。そこにそれがあるならあればあるほどなのだ。

解離障害という。障害ではない。解離あればこそである。深い悲嘆や長く続く不安の感情が解離により脳内で巧みに分離絶縁された現象はわたしの命綱だったと言える。

わたしは物心ついた時にはぬいぐるみのクマを可哀想だと労わるごっこをしていた。クマのJは孤児であり、継母から酷い虐待を受けていた。わたしはJの継母の役をしたのちJが実母と再会を果たすとわたしはJを慰めいとおしむ実の母親の役を演じた。

内的迫害者人格が主人格を殺害するというDIDの自己破壊行動を専門書では身代わり人格の復讐衝動だと解説するのが一般である。

専門書などデタラメだ。全く専門家が笑わせる。

命を張って守り抜いた自分の分身なのだ。彼女は小さな女の子だった。俺たちは強い絆で結ばれていた。どうして彼女を今更破壊する必要があるというのだろう。俺がそれをするというのか。それならば俺など居なくなればいい。

迫害者人格などははじめから存在しなかったとわたしは確信している。そうだ、俺がおまえを守ってきたんだ。そうだね、貴方がこれまでずっとわたしを変わらず愛してくれていたことを今後わたしが忘れることは決して無いだろう。

(2016.2.4)